ばねを選ぶうえで抑えておくべきポイントとは?

ばねを選ぶうえで抑えておくべきポイントとは?

 

今回は、ばねを選ぶ前に知っておきたい「ばねの基本理解」をテーマに取り上げました。
ばねがどういった用途で使われるか、ばねを選ぶうえで抑えておくべき項目などを徹底解説いたします。
今回のコラムを通じて、皆様の中でばねの基本理解が少しでも深まり、今後の依頼等の一助になりましたら幸いです。

 

 

はじめに

まず、ばねの使い道をお話する前に、ばねがネジの次に使用頻度の高い機械要素であることはご存知だったでしょうか?

洗濯ばさみやクリップ、冷蔵庫や掃除機などの電化製品、ボールペンやシャープペンシルなどの筆記用具、というように我々の身の回りの精密機器や日用品の一部としていたるところでばねは用いられているのです。そのため、ばねに関する基礎的な知識を知っておくことは、機械設計にとって必要不可欠なのです。

 

1.主なばねの使用用途

 

「特性別」にばねの使い道をご紹介

何らかの力が加わることによって変形している物体は、その力作用が取り除かれると元の形に戻ろうとすることは、ご存知かと思います。この性質は、万物の物体に備わっています。このような性質を「弾性」と呼称し、弾性を有効活用するが全てのばねの原点となっているのです。

上記で示した「ばねは弾性を原点とする」ことを前提に、ばねは以下の3つの特性に分けられ、そのそれぞれに用途が異なります。

 

力の負荷で変形し、力が取り除かれると復元する

用途例

この「力とたわみ」の定量的に示す方法を「ばね定数(1㎜たわませるために必要な力【kgf】)」という

線形特性

(ばね定数が一定)

板ばね

コイルばねなど

非線形特性

(ばね特性が変化)

不等ピッチばね

テーパーコイルばね

親子ばね

たる形コイルばねなど

 

固有の振動数を備えている

用途例

力の負荷によって変形させた状態からばねを開放した

際に、自身の弾性によって振動を発生させる性質がある

プレス機の防振など

 

エネルギーを吸収・蓄積し、放出する

用途例

(例)弓に蓄積されていたエネルギーが放出され、

   矢が遠くへ飛ぶ

弓矢

ゼンマイ式おもちゃ

ゼンマイ式時計

自動車懸架用ばねなど

 

 

2.ばねを選ぶうえで抑えておくポイント

ばねを選ぶうえでは、費用面や納期のことを考えると、できる限り市販で販売されている標準品を使用することが一般的です。また、品種も多く揃っているため、例外がない場合はほとんどが標準品の中から選ぶことができるかと思います。
しかし、ひずみ量や出力の大小によって、製作を伴う特注品がなければ必要要件を満たせない場合もあるのです。
このような場合に、どんな素材で、どれくらいの大きさ(太さ)の、どの程度の巻き数のばねを選べばいいのかなどのように、様々な項目についての検討が必要です。
そのため、ばねを設計するうえでの大まかな流れを解説していきたいと思います。

ばね設計の流れ

  1. ばねのサイズ、形状を決める
  2. 想定される荷重を決定する
  3. ばねの材質を決定する
  4. ばねの寸法(外径・内径、コイル平均径、有効巻数、自由長など)を決定する
  5. 疲れ強さを確認する
ポイント① ばねのサイズ、形状を決める

まず、ばねの概略寸法(大まかなサイズ)を決める必要があります。ばねを使用したいスペースに対して、1本あたりのスペースと本数を決めます。

また、ばねの用途に応じて、形状を選定する必要があります。ばねの形状による分類は以下の通りになります。ばねといっても、様々な種類の形状が存在します。

 

 

板ばね

重ね板ばね

ばね板を重ね合わせて構成した板ばね

薄板ばね

 

コイルばね

圧縮コイルばね

線、棒状または板状の材料をらせん形状に成形したばね

引張りコイルばね

ねじりコイルばね

トーションバー

任意断面の棒状で、長手方向の軸回りにねじりを受けて使うばね

 

スタピライザ

車体に遠心力が作用した場合の車体の揺れをすくなくするために取り付けられている棒を曲げたばね

 

皿ばね

中心に孔の開いた円板を円錐状に加工し、圧縮方向にばね作用をする、底のない円形のばね

 

渦巻きばね

接触形渦巻きばね

平面内で渦巻き形をしているばね

非接触形渦巻きばね

 

ばね座金、止め輪

 

ばね座金はねじの緩み止めに用いるばね作用を利用した座金。止め輪は軸または孔に付けた溝にはめて、軸方向の移動を防ぐ輪状のばね

竹の子ばね

長方形断面の材料の長辺がコイル中心線に平行な円錐コイルばね

メッシュばね

細い線を布生地のように編んでクッション材として使われるばね

輪ばね

円錐面をもつ内輪と外輪とを交互に積み重ねたばね

ファスナーばね

板バネの一種で、止め輪・座金・その他で締結

ポイント:想定される荷重を決定する

ばねのサイズが決定次第、「どれくらいの荷重に耐える必要があるのか」を想定しましょう。

ポイント③:ばねの材質を決定する
ばねの材質を決定し、詳細な形状を決定する必要があります。ばねの材質については、主にプラスチック材、セラミックス、鉄鋼材、非鉄金属材に分類されます。
ばねの材質の決定によって弾性係数や引張強さが決まり、たわみ量や上限応力係数、下限応力係数を算出することが可能となります。
また、ばねの材質の決定時には、想定される荷重に対して、許容ねじり応力(*)が下回ることのない材質を選ぶ必要があります。
*許容ねじり応力:ばねに用いる材料が許容される最大応力のこと
ここで、最も普及され、代表的なばねである「コイルばね」を例に取り主に使用されている材質とJIS規格についてご紹介したいと思います。
コイルばねによく使用されている2大材質はステンレス材とピアノ線材です。以下に、ステンレス材とピアノ線材の主となるJIS規格とその特徴を示しております。

材質

JIS規格

特徴

ステンレス材

SUS304-WPB

最も一般的な材質であり、SUSの

規格ばねはほとんどこの材質を使用している。

SUS631J1-WPC

約350℃の環境下にも耐えることのができ、耐熱性に優れている。

ばね特性が高いものの高コストになる。

SUS316-WPA

304より耐食性に優れ、サビにくい。

ピアノ線材

SWP-A

最も一般的な鉄系材料である。

SWP-B

A種と比較して、耐久性に優れている。

SWC

上記2種と比較して特性の全般において

劣るものの、安価である。

ポイント④:ばねの寸法を決定する
ばねの寸法を決定するために必要な寸法項目は以下になります。
また、寸法項目内の「外径or内径」、「たわみ量」、「ばね定数」については、ばねを選定する場合の必須項目となります。
<寸法項目>
線径
コイル外径・内径
総巻数
有効巻き数
たわみ量
自由長
端末形状
巻き方向
ばね定数など

ポイント⑤:疲れ強さを確認する

「材質の決定」で計算した上限応力係数や下限応力係数を疲労限度線図(*)に当てはめて、「疲れ強さ」を確かめます。
*この線図によって耐久性をストローク回数に換算して約1000万回割り出すことができます。
ここまで「ばね設計の流れ」において、解説してきた5点に基づきながら必要要件の決定をしたうえで「標準品を購入するのか」、「特注品を依頼する必要があるのか」を判断する必要があるかと思います。
また、設計案件によってどの点に重点をおき優先順位をつけていくかが異なるかと思いますので、慎重な判断が重要になります。

 

3.適切な部品選びを

今回のコラムではばねの基本理解と題して、大枠として「ばねがどのような用途で使われているのか」を始め、実際にばねを選ぶ際に重要なポイントや流れについて解説させていただきました。先述の通り、ばねに関する基礎知識を知っておくことは機械設計において必要不可欠であり、適切な場所に適切な部品を取り付けるためには、様々な要件があることがご理解いただけたかと思います。
とは言っても、今回のコラムは「ばねの世界」の入口に過ぎず、ばねの形状によっても「そのばねならではの特性や使用事例など」が存在するのです。今回のコラムに興味を持ち、お読みくださった方は、ぜひ他コラムでさらに知識を深めることで、ばねの製造依頼や設計に役立てていただければと思います。
また、お問い合わせにて製造・設計にも対応しているため、お気軽にお問い合わせくださいませ。1個からの設計・製造であっても対応いたします。